前回の話の続きですが、この後、事業は極めてスムーズに進みました。それまでのぎくしゃくした困難な状況が嘘のように展開し始めました。
私の意識の変化が、相手にも自然に伝わっていたのでしょう。
結局、「早く判子を押してほしい」「早く楽になりたい」という自分の立場しか考えない、私の我見・我欲が道を閉ざしていたのでした。そのことに気づいて、彼女に対して反省の思いを持った瞬間から何かが変化したのです。その後、その再開発事業は無事完成しました。
相手への恨みつらみ
ところで、ある時、大阪にいる知り合いのテナントビルのオーナーにこの話をしたことがあります。そうしたら同じような体験をしたといって、その女性オーナーは次のような話をしてくれました。
彼女のビルに入っているテナントで、企画プロモーションの会社がありました。その会社の社長のAさんは、一時は非常に羽振りが良くて、10数人の社員を使っていました。一番の絶頂期は、世界環境フォーラムを開催して、ゴルバチョフ氏にも来てもらったときでしょう。大手スーパーの資金援助も得て、大成功したのです。
ところが、そのあとから家賃が滞るようになってしまいました。半年も滞納です。彼女が催促するともうちょっと待ってくださいといいます。聞いてみると、大手スーパーとAさんの会社の間に入った会社がお金を持ち逃げしたということで、Aさんの会社に予定していたお金が入らなくなってしまったのでした。
彼女が催促をすると、明日、大手スーパーの社長と会いますから、もうちょっと待ってくださいといいつつ、持ち逃げした会社への不満、恨みつらみ、そして少しも援助してくれない大手スーパーへも不満たらたらです。そこで、彼女はAさんに言いました。
感謝の気持
「もし、明日、スーパーの社長に会うんやったら、いまのような気持ちで会うたらあかんで。いまのような『何とかしてほしい』『早くしてほしい』という気持ちで会うたらあかん。そうやのうて、あのフォーラム成功して嬉しかったやろ。そのときのこともう一度思い出してみい。そういう嬉しい気持で会うことや」。
「あんた一人で成功したんやない。みんなで成功したんやで。そのことを思い出しいや」。
「あのフォーラムが成功したのは多くの人のおかげやから、まずはその人たちに感謝の思いを持つことや」。
「そして、明日、社長にはお礼に行くつもりで会うことや。まずは、お礼を言って、そのあと援助をお願いしたらええ」。
彼女がそう言うと、Aさんは目を赤くして涙を流していました。
その2日後、Aさんは彼女のところに挨拶に来ました。「ありがとうございました。言われたとおりに話しました。そうしたら、また、そのスーパーから毎月500万円の仕事がもらえることになりました」と喜び一杯でした。
再び、発展繁栄への道が開かれたのです。
我見・我欲はわざわいなり
結局、恨みつらみは『我(が)』です。こちらが『我』を出すと相手も反発という『我』を出します。こちらの『我』の思いが相手の『我』を引き出しているのです。
『我』はさまざまな形を取ります。「相手を責める我」もあれば、悲観的になって「自分を責める我」もあります。また、俺がやったんだという「慢心の我」もあれば、早くお金を返してほしいという「焦りの我」もあります。さらには、『目立ちたいという我』もあります。
いずれにしろ、こちらの『我』は相手の『反発という我』を引き出します。
逆に、こちらの感謝の気持ちは、相手の感謝の気持ちを引き出すのです。
ただ、自分が我見・我欲で物事を進めているのか、正しく進めているのかは自分ではなかなか解りません。これが我見・我欲だと解れば修正がききますから、ほとんどの場合、我見・我欲には気づかないといっていいでしょう。
では、どうしたら自分の我見・我欲に気づくことができるのか、それは、周りの反応で見極めるということしかありません。何か不都合な出来事が起きたら、自分に問題がある、あるいは自分にこだわりがある、だから不都合が起きていると考えるのです。そう考えるのが、一番解決が早い近道です。
昔の人は、このことをよく見抜いていました。「立ち向かう人の心は鏡なり」と。
『我』には『我』が返ってくる、『感謝』には『感謝』が返ってくる。このようなシンプルな原因・結果の法則で、世の中は動いているのです。
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