街の活性化に関する企画・プロデュース業務 株式会社ELC JAPAN
代表ブログ
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2019/07/25

魅力あるまちづくりと生き甲斐づくりのポイントー⑥ 我見・我欲は禍なり

最後の一人

まちづくりや都市再開発事業における権利調整とは、心理調整のことだとつくづく思い知らされたことがあります。ある私鉄の駅前再開発に取り組んでいたとき、最後の一人となった地権者の同意を年内に得なければ、大変なことになるという事態に追い込まれました。

経緯はこうです。そのときまで再開発が順調に進んできましたが、最後の一人が転出先の場所の問題で不満があって同意書に判子を押してくれなかったのです。地元で長く住み続けて来た女性です。先祖代々の土地を、結婚することもなくひとりで守り続けてきた女性で、計画ではちょうど駅前広場の中心となる場所に住んでいました。


無理を主張する女性

彼女の主張は「私は、もともと再開発に賛成ではないし、無理矢理追い出されるのだから、一番いいところに代替地をもらって当然だと思う。しかも、将来駅前広場になるちょうど真ん中に位置しているのだから、一番いいところをもらって当然だと思う」というものでした。

たまたま、近くに大規模な遊休地があってそこを転出者用の代替地として提供してくれる方がいたので、そこに数人の転出予定者を、不公平にならないように割り振ったのです。しかし、彼女は「私が一番犠牲が大きいのだから私が一番いいところをもらって当然」と主張して譲りません。年を越えると、すでに別の場所に事前転出していたある工場経営者に一億円もの税金がかかってくることになってしまいます。年末が近づいてきて私は焦りました。年が明けると裁判になるかもしれない。事業の責任者はプロジェクトリーダーの私です。何としても年内に同意をしてもらわないと事業は頓挫するばかりでなく、下手をすると新聞沙汰になりかねません。焦りに焦った私は、毎日その女性の所に出かけました。しかし、全く会ってくれようともしません。門前払いです。そういう状態が何日か続いて、日に日に焦りが出てきました。


こちらのこだわりに気づく

少し間を空けて、心を落ち着けて、再び私は彼女の家をノックしました。しかし「私は、何度来られても会いません」と厳しい言葉です。午前中早い時間に一度、お昼近くにもう一度。しかし、2度目はチャイムを押しても何の反応もしてくれなくなりました。12月25日のクリスマスの日です。早く説得しなければ、早く同意をもらわなければ、と焦りに焦りました。

午後2時過ぎにまた出かけていきました。しかし、「もう来ないでください。これ以上来ると、これはもう脅迫ですよ」とまで言われてしまいました。万事休す。私は事務所でボーとしてしまいました。

ところが、そのとき、私はふっと思ったのです。「そういえば、私も辛いけれども彼女はもっと辛いのかもしれない。女性一人で誰にも相談できなくて、悶々としている。辛いんだろうな。私は自分の都合ばかりを押し付けてきたけど、もしかしたら彼女はもっと辛いのかもしれない。これは申し訳ないことをした。まずは、お詫びをしなければ。そして、そういう辛い中でも、今まで何とか、条件交渉のやり取りをしていただいたことに感謝をしなければ。」と。本当に心の底からそう思ったのです。間髪をいれず私は彼女の家を訪ね、チャイムを鳴らしました。「キンコーン」。


道は開かれた

なんと、ドアを開けてくれたのです。私はびっくりしました。そして言いました。「すみませんでした。私は、自分の都合ばかりを言ってご迷惑をかけました」と。そしたら、お座敷にまで上げてくれたのです。初めてお茶も入れてくれたのです。私は改めてお詫びの言葉を言いました。「ご迷惑をお掛けしました。大変失礼しました」。

 「そう、解ってくれた? 解ってくれたのなら、もういい。私は判子を押してあげる。私がどんなに辛い思いをしてきたか、近所では私がごね得を狙っているんだとか、行かず後家だから意地悪しているんだとか、いろいろな噂が入ってきて、もう村八分ですよ。毎日毎日針のむしろですよ。でも、もういい。解ってくれたからもう判子を押してあげる」。正直、私は涙が出てきました。


同意書に判子を押してもらって、すぐに区役所の担当課長に届け、その足でその同意書をもって、その日のうちに区の助役にも同行してもらってタクシーで東京都庁に出向きました、すでに同意書以外の書類はすべて事前に届けてあって目を通してもらっていましたから、係長、課長、部長、そして局長と一人一人の捺印をいただいて最後に知事の印鑑もいただきました。

滑り込みセーフ。奇跡が起きたのです。通常一か月半かかると言われていた認可が2時間足らずで降りたのです。


 この時、私は心の世界がつながっていることを実感しました。

3回目のノックをした時にドアを開けてくれたのは、すでに彼女は何かを感じていたのでしょう。


次回のブログで、このことを少し掘り下げてみたいと思います。


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