チャレンジには必ず結果が付いてきます。
しかし、その結果が光り輝くものであったとしても、また逆境のようなものであったとしても、そこから正しい成果を得ることは可能です。
次は、そのサンプルになる事例です。
仕事の行き詰まり
ある私鉄の、急行が止まる駅前の再開発事業での、ほぼ30年前の体験です。駅前通りが狭く、バスが思うように通れない所でした。30名の地権者、約10名の借家人・テナントという状況です。再開発のテーマは駅前広場と細街路の整備、近代的な住みよいンマンション提供、区のホール建設等の話で始まりました。関係権利者数40人の地域としては、比較的早くまとまりましたが、ただ一人の大地主(女性)だけが強烈に反対しました。「私が一番犠牲が大きいのだから、代替地は私が一番いいところをもらえるはずだ」という言い分です。当時は、全員同意型の組合施行の事業しか東京都は認めていなかったので、ずるずると引き延ばされ、あと1週間で決着しないと、事前転出した駅前の材木店に1億円を超える税金がかかってしまいます。当事業の推進役としてみんなをリードしてきた私にも責任が及んできます。都からも区からも「どうするんですか、このまま行ったら裁判になりますよ。新聞沙汰になりますよ」と暗に私を責める言葉が出始めました。困った、困った。というより、どうにもならない。私はノイローゼ状態に陥ってしまいました。
相手の立場を理解する
そういう状態でも、なんとかしなければと焦ります。焦りつつも相手の方の自宅をノックしました。反応がありません。家の中にいるのは判っているのに。2度目も反応なし。昼食を取る気にもなれず、悶々としていました。その時、ふっと沸き起こった思いがありました。「私も苦しいけど、この人もつらいんだろうな」と思ったのです。突然湧いた思いでした。そこで、まずはお詫びをしようと立ち上がりました。
すぐにノックしました。その日3度目です。そしたら、ドアが開いたのです。今まで一度も開けて貰ったことがなかったので、「あれっ」と思いました。ドアが開いただけではなく、中へどうぞと言います。驚きました。そしてお座敷に通され、お茶まで出てきたのです。初めてのことでした。驚きが感動に変わりました。
私は、涙がこみあげてきて、ウルウルしながら「私は自分のことしか考えないで、あなたをこの事業の邪魔をする悪者として苦しめてきました。本当に申し訳ありませんでした。」と。そしたら、彼女も涙を流しながら「わかってくれた?わかってくれたならもういい。ハンコ押してあげる」と。
有り得ない奇蹟
「私がどんなに苦しんできたか。あいつはごね得を狙っているんだとか。行かず後家だから、嫌がらせをしているんだとか。もう毎日毎日が四面楚歌でしたよ。村八分でしたよ。でももういい、ハンコ押してあげる」私は涙でしばし頭を上げることができませんでした。
すぐに、同意書にハンコを押してもらい、区役所の課長に届けました。そしたらすぐに東京都に行こうとなり、区の助役にも同行してもらい、タクシーに乗って都に駆け付けました。係長のハンコ、課長のハンコ、部長のハンコ、局長のハンコ、そして知事のハンコと、わずか2時間の内に権利変換の認可が降りたのです。普通だと1か月以上はかかるのに、奇跡が起きたのです。
東京都も区役所も新聞沙汰にしてはならないと必死でこの事業の成功を支えてくれていたのでした。
それから3年ほどして無事この事業は完成しました。
駅前広場とデッキの連続性、素晴らしい公的住宅。そして区のホール、駅前にあった信用金庫の再生、パチンコ店の近代的な復活等。大半のことは成就しました。
奇蹟持続の条件
ところで、起きた奇蹟はこれだけで留まりませんでした。私が勤務している会社に次から次へと仕事が入り始めたのです。しかもその多くが私個人の指名で、中野区、新宿区、渋谷区、文京区から仕事が入り始めたのです。それからしばらくは毎日毎日幸福感で満たされた日々でした。2~3年は続いたでしょうか。有頂天でした。
ところが、やがて段々と平凡な毎日に戻り始めたのです。ただ仕事をこなしている、そんな状態に戻っていました。
この頃から、私はなぜ奇蹟が起きて、なぜ元に戻ったのか考え始めました。
当時、日々やり取りした会話を思い出して、考え抜いた結論は、
・その時の仕事が心底の喜びであったということ。
(仕事が真に喜びであるとは、朝起きたら早く会社に行きたいと思っていたということです)
・仕事の感動や喜びが持続するには、日頃からコツコツと努力することが大切でした。
(他地区の事例をよく研究し、何よりも日々接する地権者の方々への利他の思いが大切であることでした)
・まちづくりとは、ただ金儲けのために仕事をするということではなく、将来の街の理想を実現することでした。
(心に描く理想は、強烈なものでなければなりません。具体化はその思いの強さに比例します)
多分、以上が一流の条件なのでしょう。
・仕事の真の成功とは、それに関わる人たちの人格の成長をも伴うものであることは間違いありません。
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