街の活性化に関する企画・プロデュース業務 株式会社ELC JAPAN
代表ブログ
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2020/02/10

ELCブログ―生き方改革―(17)閾値を超える

これまで、ハードとソフトのまちづくりの同時進行として「魅力あるまちづくりと生き甲斐づくりのポイント」というタイトルでブログを書いてきましたが、もう少し趣旨を徹底したいと思い、ブログのタイトルを「生き方改革」としました。


再就職の苦労とトイレ掃除

10年ほど前、まだ日本経済が不況からなかなか立ち直れなくて、あちこちで社員のリストラや給料カットが吹き荒れていたころです。定年退職をして、全くの畑違いの印刷会社に再就職した方と話をする機会がありました。すでに、その印刷会社に勤めて数年が過ぎていましたが、そのときに聞いた話です。


私は、定年と同時にこの印刷会社に再就職しました。印刷に関しては全くの素人だったのですが、たまたまこの会社が、シール印刷という特殊な印刷機械を導入したばかりというので、マニュアルを見ながら操作すればできるだろうと思って、その機械運転の現場を希望しました。幸いにして採用され、現場に配属されました。ただ、機械操作に関しては問題がなかったのですが、ひとつ誤算がありました。

というのも、この会社はアメリカのロサンジェルスに支店があって、その支店から外国人が3人、この新しい機械の技術を習得するために派遣されてきたのです。この3人の指導を任せられることになりました。アメリカ人、メキシコ人、ブラジル人の3人です。私は、英語も、スペイン語も、ポルトガル語もできませんから、身振り手振りで教えました。上司から、この3人はほっておくと怠けるので、教育も兼ねて、トイレ掃除をさせろと言って来ました。しかし、外人はトイレ掃除など自分の仕事ではなく、それは清掃会社の仕事だと、全くやろうとしません。仕方なく、私は、外人がやったように見せかけるために、毎朝7時半に会社に来て、1時間トイレ掃除をすることにしました。

最初の1ヶ月ぐらいは、イヤでイヤで仕方がありませんでした。でも毎朝1時間やり続けました。そのころは、「馬鹿だな、そんなことは、若いのに任せればいいのに」とか、「いい歳して、よくやるよ」とか、馬鹿にされることが多かったです。

ところが3ヶ月経ったころには、「根性あるんだな」という人が出てきました。

半年ほどたったころには、「お疲れさん」とか、「ご苦労さん」と声をかけてくれるようになり、周りの反応が変わってきたのです。さらに一年ほど経ったころ、社長が朝礼で「掃除とは、ただ汚れを落とすだけでなく、磨きこむことである」と言ってくれたのです。嬉しかったですね。社長は見ていたんだと。

さらに、はじめてから1年半ほど経ったころ、工場長が率先して「みんなで工場の磨きこみをやろう」といい出しました。この工場には、パンチパーマの若者で、遅刻の常習犯がいたのですが、この若者が「ご苦労さん」といってくれるようになり、遅刻もしなくなったのです。機械もピカピカになってきました。

2年ほどやり続けたら、不思議とみんなが話しかけてくれるようになりました。自分でも穏やかになったと思います。いやな上司とも仲良くなれ、一杯飲みに行こうと誘ってくれるようになりました。印刷業界は全体的に不景気なのに、うちの会社はすごく景気がいいのです。


はじめは、イヤイヤやっていましたが、そのうちに淡々とできるようになりました。そして、2年ほど経ったころには、自分の中で何かが変化したのです。他人のことが気にならなくなったというのでしょうか、自分が穏やかになったというのでしょうか。自分の中で、不思議な自信と安らぎが出てきたのです。


という話をしてくれたのです。


環境整備で売上げ4倍増

ところで、掃除ということに関しては、経営コンサルタントの一倉定氏が有名です。中小企業の社長ばかり数千人を顧客に、獅子奮迅の活躍をした名コンサルタントでしたが、残念ながら数年前に亡くなられました。その一倉氏の環境整備(掃除)に関する熱の入れ方は尋常ではありませんでした。その著書から一部引用します。(「新・社長の姿勢」一倉定 経営合理化協会)


レストランのA社に私が初めてお伺いしたのは、10年以上前のことだった。当時のA社は、業績は下降の一途で、大幅な赤字に泣いていた。付近にいくつもレストランができたからだという。

私は「何が競争相手のせいだ。自分でやることもやらずに、売上げが減ったもないものだ。性根を入れかえて環境整備をやれ、こんな汚い店をお客様が嫌がるのは当たり前だ。それをやらずに、店の宣伝に頼るとは怠け者のやることだ」と決めつけたのである。

この日からA社長は心を入れかえて環境整備に力を入れだした。それからは3ヶ月に一回くらいA社に行き、店ごとの採点と注意を行なった。2回目の時には売上げは少し上がっていた。

3回目のときである。店ごとの私の採点をグラフに記入した社長は「アッ」とばかり驚いた。私の採点の上がり具合と、店ごとの売上げが見事に一致していたからである。採点の上がった店は売上げ増が大きく、採点のあまり上がらない店の売上げはわずかしか上がっていなかったからである。

これによって、A社長は、自分は何をすればいいかをはっきり自覚したのである。このころになると、社長をはじめ社員一人一人の心構えがかなり違ってきていた。社員の一人一人が、環境整備だけでなく、「どうしたらお客様にもっとサービスをよくすることができるか」を考えるようになったのである。

A社全体に「心の革命」が起きたのである。

それから10年間、A社の売上げは文字通り、ただの一ヶ月の低下もなくなく上がり続けた。客席回転数は、全店(8店舗)で通常6回転である。A社長は「6回転なんかできないはずなのに」と首をかしげるのであった。


一倉氏は、この書籍の中で「この不思議な現象は、単なる偶然とはどうしても思えないのである。整備された建物が、清浄で強力な精気(オーラ)を発し、これがお客様にも届いているとしか考えられない」と言っている。



閾値を超える

「閾値(いきち)を超える」という言葉があります。臨界点を超えるという意味に近いものですが、要はコツコツとやり続けると、どこかで質的変化を起こすというものです。「蓄積の効果あるいはキューミュラティブ効果」という場合もありますし、「一線を超える」という場合もあります。

先に紹介した定年退職のサラリーマンの方の体験も、また一倉氏の例も、努力を続けていくうちにどこかで質的変化を起こしたのです。だから、自分を変え、周りを変え、会社を変えていけたのです。努力の量が質に転化したということでしょう。


この閾値を超えるということは、掃除だけに起こることではありません。学問でも、仕事でも、芸術やスポーツでもあらゆる分野で起こります。


次回、そのことを書いてみます。


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