責任転嫁ではものごとは解決しない
前回取り上げた「原因は自分にあり」という事例は別に特殊なケースではなくて、ビジネスでも、家庭でも、どこでもありうる話なのです。
じつはあの有名な、松下電器を創業された松下幸之助さんも、「決断の経営」(松下幸之助著、PHP文庫)という本のなかで、そのようなことを書いています。この中で、松下さんは「事のならざるは自分にあり」ということを書いています。
「熱海会談での感動」という、これは松下電器の歴史においては非常に有名な話なのですが、ちょうど昭和39年の不況の時、家電メーカーも不況になってテレビやら冷蔵庫やら売れなくなった。それで、これは大変だということで松下電器も全国の販売店や代理店の社長さんを熱海に集めて、実態をもう少し聞こうということで、懇談会をもったのです。全国から300社近くの社長さんが集まって、1泊2日の懇談に入った。それでみんなの実態を聞こうと思ったら、出るわ、出るわ、松下電器に対する愚痴とか、不満とか、批判ばっかりだったのです。
松下電器の指導が悪いからずっと赤字が続いている。あるいは親の代から松下電器の製品を売っているのにちっとも儲からない、赤字続きだって。そういう批判的な言葉ばかりが出た。松下幸之助さんは、そんなことはないでしょう。それはあなた方の経営が悪いからだ。松下電器が悪いんじゃない、あなた方の経営が悪いからだということで反論した。1日目はそういうやり取りで終わった。2日目になった。2日目になっても相変わらず不満や愚痴が出る。どうしてくれるのだ。今まで松下電器のために一生懸命やってきたのに、ちっとも黒字にならなくて赤字ばかりだ。どうしてくれるのだという責め口調ばかりきた。
そこで、松下幸之助さんしばらく考えた、どうしてだろうと。ずーと考えてきたら、沸々とこみ上げてくるものがあった。そう言われてみればそうだなということを感じたらしいのです。その辺のいきさつがここに書かれてあります。
事のならざるは自分にあらずして他人にあるのだ。というような考え方を一部持っているものがあるとするならば、それは大変間違いである。私どもはついつい、代理店さんがもっとしっかりして下さったならばと思うこともあるが、これも大変な間違いであった。やはりその原因は私ども自身にあることを考えなくてはならないのだ。
つまり、松下幸之助さんはそのときに、松下電器を創業して松下の電球を売り始めた頃の苦労を思い出したというのです。「一流の電球を作っていますから、一流のメーカーと同じ値段で売って下さい。値下げはしないで売って下さい」と言った時に、卸問屋から「そんなことはできない」と言われた。まだまだ新興の会社なのに、価格通り売って下さいなんてとんでもないと言われたけども、松下電器を育てるつもりで頑張って下さいということでお願いしてまわった結果、今日の繁栄が築かれたのだということを思い出した。
そしてその当時の販売店、あるいは代理店のご苦労のことを思い立った時に、松下さんはつい涙が出てきて、みんなの前で「申し訳なかった」と反省した。そして、300人近い販売店、代理店の社長の前で涙を流してハンカチで拭いながら謝ったそうです。そうしたらそれが伝わったらしくて、ある代理店の社長さんが、「いや、そうは言っても自分たちにも経営の甘さがあった。松下電器ばかりを責めていちゃダメなんだ。自分たちにも問題があった」。と、相手の方も反省をしはじめた。そして最後は相手方全員の涙々となり、お互いこれから松下電器のために全員一丸となって頑張っていこう。ということで熱海会談は感動のうちに終わった。そしてそのあと、この不況を何とか乗り切って、松下電器はその後の発展の礎をさらに築いていくことができた。そういうようなことが、この本に書いてあります。
自己責任を腑に落とす
このように、景気が悪くなったり、会社の販売が思うようにいかなくなった時は、だいたい他人を責めます。相手を責めるのです。相手が悪いと。特に社内で会議をしてもそのようなことが起こります。なぜ売れないか?販売部の人は製品の設計が悪いという。設計している人から見ると、営業が良くないという。お互いに相手を責める。そういうところは、だいたい責任転嫁なのです。自分の問題じゃなくて、相手が悪いから会社の景気悪いのだと言い、お互いに責め合っている。そういう会議は何回やっても良い結果生まないのです。なぜか。松下幸之助さんの話と同じで、販売店が悪い、松下電器が悪い、とお互いに相手を責めているうちは真の解答が出ないのです。そうではない、自分の方が悪かった申し訳なかったと反省するところから、相手も申し訳なかったと言って、お互いに信頼関係がそこで築かれる。だから、自分の問題としてとらえた方が物事は解決が早い。自分の問題としてとらえて反省するところから、さらなる発展繁栄がはじまるのです。
ただし、大切なのは、こういう自己責任の話を単に知識として吸収するということでなく、いかに腑に落とすかということです。これはただ頭で理解すればいいというものではありません。今、この話を読んで「なるほど、自分の問題としてとらえればいいのか」と頭で考えるだけだったら、その程度です。問題は、頭で考えることではありません。こういうことは「そうか!!そうだったのか!!」と、いかに腑に落とすかということが大切なのです。腑に落とさないかぎり、それは自分の周りの変化として現れて来ません。本当に府に落とすと、実際の行動につながりますから、周りに変化が出ます。松下さんが、「この不況は自分の経営上の誤り、慢心が原因だった」と涙を流して謝ったら、販売店の社長たちも、その影響を受けて反省したというように。
会社の人間関係も、地域の人間関係も基本は同じでしょう。どんなに納得のいかない不愉快なことがあったとしても、自分の問題として捉えれば、そこから新たな発展の道が開けていくということです。
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